まずはターゲットについて、市場の全体を相手に戦うのか、それとも自分達が有利になりそうな市場の一部のみ(ニッチ)を対象として戦うのか。次にバリューについて、低価格さ(コスト)で勝負するのか、それともより高い価値を生み出すこと(差別化)で勝負するのか。そして、企業が競争に打ち勝って利益を上げうるための戦略は、大きく3種類しかないと主張しました。市場の全体を相手とし、より高い価値を生み出すこと(差別化)で勝負する「差別化戦略」、同じく市場の全体を相手としながら、差別化ではなく低価格さで勝負する「コストリーダーシップ戦略」、そして、自分達が有利になりそうな市場の一部のみを対象として戦う「集中戦略」の3つ(戦略3類型)です。では、東京医科歯科大学MPHプログラムは、どの戦略をとったのでしょう?東京医科歯科大学MPHプログラムは、主たるターゲット(対象市場)を「国際機関等でのキャリア構築を考えている応募者」や「医療系の学士課程を卒業して医療職につきながら公衆衛生学を学びたいという応募者」に絞っています。バリュー(競争優位の源泉)は、「国際機関等でのキャリア構築のための人的ネットワーク形成機会」「離職せずとも履修可能なオンライン(同期または非同期)受講オプション」などの付加価値で差別化を図り、さらに国立大学法人として国から運営費交付を受けているからこそ実現できる学費の低価格さなどになります。つまり、戦略3類型のなかの「集中戦略」をとっているのです。しかし、東京医科歯科大学プログラムは最初からこの戦略を採用していたわけではありません。SGU申請書には、世界中から公衆衛生学領域の研究者や研究ユニットを複数誘致し、公衆衛生学領域の様々な分野で最先端の研究を展開し欧米の教育研究機関と競争/協働するとともに、次世代の研究者育成のための修士/博士課程プログラムを創出することを謳いました。つまり当初の戦略は、市場全体(応募者全体)をターゲットとし、多岐に渡る質の高い教育研究を展開することによる差別化と、国立大学法人として国から運営費交付を受けているからこそ実現できる学費の低価格さとで勝負するという、「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」の2つの戦略を計画していました。しかし、SGU採択に際して認められた補助金が申請額の1/4程度であったため、当初の壮大な計画の実現は不可能となり、「集中戦略」に転換したのでした(図1.2)。戦略の策定の仕方については、第2章で詳しく説明します。
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