1.2.3 ターゲット・バリュー・ケイパビリティAgricultural Science Course:以下、IIASと略)では、設立当初から一貫して農学の中でも「灌漑・排水」「(稲作の)栽培系技術」「農業・農村開発」を重点領域として成功してきました(Appendices A.1/A.2.2)。稲作中心の東南アジア(やアフリカ)の学生に対して、世界トップレベルの稲作技術を持つ日本、IIASの強みが活きるからです。筑波大学人間総合科学学術院人間総合科学研究群スポーツ・オリンピック学学位プログラム(Tsukuba International Academy for Sport Studies:以下、TIASと略)は、その前身である国際スポーツアカデミーの頃より、体育やスポーツ科学、オリンピックのための強化システムなどを一つのパッケージとして体系的な教育/研究を展開してきました(Appendix A.1)。これらの体系的な教育/研究を展開している機関は国内外を通じて稀有であり、それらを学びたいというアフリカ諸国や開発途上国からの学生に対して、TIASの提供するバリューが見事にマッチしています。いずれも、海外から修士課程応募者を惹きつけるための独自性を確立するために、自分たちが生来持つ強みを活かせる領域に絞り込んだということでしょう。1.2.2基本戦略で言及しましたように、今回調査したプログラムのほとんどは、対象(ターゲット)をかなり絞り込んだ集中戦略をとっています。そしてそのターゲットの絞り込みは、そのプログラムが提供するバリューにより規定されます。一般ビジネスにおいては、まずターゲットを絞り、その上で提供するバリューを検討する場合もありますが、大学の学位プログラムの場合、大学が提供するバリュー(教育/研究)や、それを可能とするケイパビリティ(リソース(教員・施設資源)/オペレーション)をフレキシブルに変更することはできません。今回調査したプログラムのほとんどにおいてはむしろ、既存のケイパビリティとそれにもとづき提供できるバリューありきでスタートし、募集を開始してみたら、結果的にそのバリューにマッチしたニーズを持つ応募者セグメントに自ずと絞り込まれていったという順番(ケイパビリティ → バリュー → ターゲット)を踏んでおり、東京医科歯科大学MPHプログラムのように、ターゲット → バリュー → ケイパビリティという順でビジネスモデルが組み立てられた事例は皆無でした(第2章参照)。 そのため本項では、前者の事例をいくつか取り上げ、ターゲット・バリュー・ケイパビリティを解説します。
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