国際競争力のある修士課程プログラムを創るための指南書
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ただ共通して言えることとして次の4点を挙げられるのではないかと思います。① 集中戦略:1.2.2でも述べたように、こういったプログラムの成功のためには対象市場を思い切って絞り込むことが大切であるようです。それが提供価値(バリュー)の明確化やプロモーション力の向上につながります。また自らの既存の強みで支えることができ、競争力の維持にもつながります。逆に対象市場を安易に広げると、バリューの曖昧化やプロモーション力の低下、競争力の低下を招きます。② ケイパビリティ起点:1.2.3でも述べたように、今回の調査対象のほとんどでは既存のケイパビリティが起点となって戦略やビジネスモデルが定まっていました。特に長年海外からの留学生を受け入れてきた大学等では、そういう傾向が強くなります。これは競争力の向上や維持にはプラスに働きますが、事業領域の拡大や新領域の開拓という面ではマイナスに働きやすくもなります。③ 戦略要素の一貫性:組織や事業のビジョンやミッションと戦略要素(基本戦略及びビジネスモデル各要素)との一貫性が高いことも、調査対象プログラムの特長でした(Appendix A.1)。一般的にはこういった一貫性を保つことは難しく、よく新規事業失敗の要因に挙げられます。今回紹介した成功事例では、「ケイパビリティ起点」で他の要素も一貫性をもって規定されたという策定プロセス(第2章参照)に大きな要因があるでしょう。もちろん、後述するように、第3章で紹介する「進行管理」、つまりは組織体制やスタッフ間のコミュニケーションの良し悪しも、重要な要因であったことは間違いありませんが。④ 収益モデルの脆弱さ:1.2.4で見たように、早稲田大学WBSのように、ノンディグリー・プログラムの充実によって収益を確保する例もありましたが、多くの公立・私立のプログラムは(成功したところであっても)自走化の域に達しておらず、JICAなど外部機関に直接または間接的に依存しています。開発途上国からの応募者が主たるターゲットであることを考えますと止むを得ない部分もありますが、今後の事業維持可能性がそれら機関の方針変更などに左右されうることに加え、事業拡大余地は限定されてしまいます。以上4点から、国際修士課程プログラムの成功のためには「戦略策定プロセス」と「収益モデル」面でのスキル向上と、「進行管理」面での体制強化が必要であると想定されます。それらが次の第2章、第3章のテーマです。

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