国際競争力のある修士課程プログラムを創るための指南書
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1.1 戦略体系の概要 本章では、ビジネスモデル、戦略、マーケティング戦略などよりなる戦略全体像(戦略体系)を概説しますが、その足がかりとして、最初に東京医科歯科大学MPHプログラムの開設にまつわる物語から始めましょう。 東京医科歯科大学MPHプログラムは、文部科学省補助金スーパーグローバル大学創成支援事業(2014〜2023年度)(以下、SGUと略記)に採択された東京医科歯科大学の取り組みの一環として2018年度に開設しました。それ以前は、東京医科歯科大学には公衆衛生学関連分野が1つのみであり、主に日本人やアジアからの留学生を博士課程に受け入れてきました。SGU申請調書では、世界中から公衆衛生学領域の研究者や研究ユニットを複数誘致し、同領域の様々な分野で最先端の研究を展開し欧米の教育研究機関と競争/協働するとともに、次世代の研究者育成のための修士/博士課程プログラムを創出することを謳いました。 しかし、SGUには採択いただけたのですが、認められた補助金が申請額の1/4程度であったため、当初の壮大な計画の実現は不可能となりました。そこで、まず学内予算で公衆衛生関連分野を2分野に増数しました。そして、国際機関等でのキャリア構築を考えている応募者に主たる標的を絞り、東京医科歯科大学教員の他に、彼らの国際ネットワークを活かして英米トッププログラム教員を非常勤講師として招聘し短期集中講座を開催するなど、履修者のキャリア構築のための人的ネットワーク形成機会を提供することとしました。また、医療系の学士課程を卒業して医療職につきながら公衆衛生を学びたいという応募者が少なくないことから、離職せずとも履修可能なオンライン(同期または非同期)受講オプションも用意しました。そして、実際の応募者の情報収集源の分析からウェブサイトが重要であると考え、プログラムウェブサイトおよびFacebookでの発信を軸としたプロモーション活動を展開しました。 9人/年の募集定員に対して、開設初年度である2018年度春入学枠への応募者は2名でした。開設後、教員が喋るだけの一方向性講義ではなく、アクティブラーニングを多く盛り込んだ質の高い学習機会の提供に努め、履修者からのフィードバックにもとづく質改善を継続的に行いました。また、プログラムでの様々な活動を教員が適度な頻度でプログラムのFacebookページに投稿しました。それらの努力が実り、開設3年目の2020年度には応募者が募集定員の2.4倍、4年目には3.6倍となり、そのうちの8〜9割を外国の学士課程卒業生が占めました。現在プログラムでは、様々な国・地域から集まった多様な文化的背景を持つ学生達が、日々授業

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